大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和30年(う)2045号 判決

被告人 北爪金吉

〔抄 録〕

按ずるに、被告人北爪金吉が原判示犯罪の日時頃原判示組合の単なる一職員であり、組合長以下理事者の指揮監督の下に組合の一般事務並びに組合で決定された業務及び組合長以下各理事者に命令された事務を執行する職務に従事していたものであつて、組合業務の執行特に組合員外の者に対する貸付等について何らこれを決定すべき権限を有していなかつたことは洵に所論のとおりである。然しながら、犯人の身分に因り構成すべき犯罪行為に加功したときは、その身分のない者でもなお共犯とするということは刑法第六十五条第一項に規定するところであつて、本件において原判決は右刑法の条文を適用して被告人に対し本来組合役員たる身分を有する者が犯罪行為者として処罰の対象となる農業協同組合法第九十九条第一項違反の犯罪に加功したものとして原判示組合長錦里三郎との共犯を適法に認定しているのであるから、単に被告人が組合業務の執行について決定権なきの故をもつて被告人の所為が罪となるものでないと断ずることを得ない筋合である。而して原判決挙示の証拠によれば原判示犯罪事実を全て肯認するに足り、記録を精査検討しなお当審で取り調べた各証人の証言を参酌検討しても、右事実認定に過誤あるものとは到底認められない。これらの証拠によれば、被告人は原判示組合の業務主任として原判示各貸付の際に関与し組合長(昭和二十九年六月以降は専務理事)であつた原審相被告人錦里三郎等役員から本件貸付をなすべきか否か意見をきかれ、これに対し被告人において組合員以外に対する貸付が法規上原則として許されないものであることを知りながらこれに賛成し種々進言している事実が明らかであるのであるから、この事実こそまさに前に述べたとおり所謂右錦の農業協同組合法第九十九条第一項違反の犯行に加功したことになりその共犯としての刑責を免れないのである。又篠田一郎に対する昭和二十九年九月十一日金百五十万円の貸付(所論は原判決が篠田製作所に対する貸付と認定したと主張するのであるがその誤であることは原判決の記載自体に徴し明らかである。)は、なるほど右篠田一郎と錦里三郎個人との間の土地売買代金として授受されたような形式を採つていることは所論の指摘するとおりであるけれども、本件諸般の証拠によれば、右は原判決の認定するとおり原判示組合の篠田一郎に対する貸付であつて、右債権並びに従前の債権の担保として土地売買の形式を採り昭和三十年二月二十八日までに右貸付金を返済したときは土地の所有権を元に復することを約したものであることが明瞭に窺われるのである。従つてこの点について土地の売買であることを前提とする議論は全く採用のかぎりでない。果して然らば原判決には何らの事実誤認もなく又法律の適用の誤も発見できないから論旨はすべて理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!